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  • Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察3

    2.1 ドイツ語の範疇及び基本表現

     範疇とはAjdukiewiczの範疇文法が基礎になっている。Lewis(1972)に基づき簡単に記すならば、範疇文法とは、以下のような文脈自由の句構造文法である。基本カテゴリー(S、N、C、・・・)の組み合わせにより複合カテゴリーが定義される。(C/C1・・・)。これらが品詞に対応する。そして、複合カテゴリーは、同時に構文的な結合関係も表し、それぞれが語彙目録を携えているのである。これらの手掛かりとして Löbner(1976)にある範疇や基本表現を見てみよう。

    範疇の定義 範疇 通常の表現 基本表現
    t Satz 文 -
    e]t Substanz 普通名詞 Mensch, Student, Vegetarier, Zwerg
    e]t]]e]t]]t Art 冠詞類 Jeder,ein,kein,der
    e]t]]t N 固有名詞、代名詞 Heinrich,Stefanie,er0,er1
    e]t V 自動詞 frieren,husten,lächeln,seufzen
    e]t]]e]t Adv 述語修飾の副詞 sehr,gerade
    e]t]]t]]]e]t TrVn 他動詞 finden,sehen,suchen,beobachten
    t]e]t TrVsatz 補文を取る他動詞 sagen,verrate,behaupten
    t]e]t TrVv Zu不定詞の他動詞 beginnen,wagen,versuchen,pflegen
    e]t]]t]]]e]r]]e]t]] Präp 前置詞 trotz,wegen
    t]t AdSatz 文修飾の副詞 notwendig,wahrscheinlich,sicher

     範疇の定義におけるeは固体、tは文の範疇である。PTQに比して、範疇Artが設けられている。この措置は、範疇Artの複合表現(ein jeder)がドイツ語にみられることを考えれば妥当なものといえよう。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

  • Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察2

    2 モンタギュー文法のドイツ語への適応

     UGは、文法体系を代数的に規定する総合的な理論であり、PTQは、UGの枠組みを英語の断片を用いて具体的に展開させている。Löbner(1976)では、数学上の基礎概念(集合論、関数式等)をUGに従って説明し、PTQに準じた形で、ドイツ語の統語論、内包論理、双方を関連付けるために翻訳規則が規定されている。図式化すると次のようになる。

    統語論 範疇 範疇文法による規定(f)タイプ ILの表現の範疇の規定 統語論
    統語論 基本表現 ドイツ語の断片に対する語彙目録(翻訳規則)基本表現 それぞれのタイプの定項と変項
    統語論 統語規則 ドイツ語の断片を生成(翻訳規則)統語規則 ILの有意表現形成
                       Des:REF+意味規則 意味規則 意味論

     以下、ドイツ語の範疇及び基本表現、内包論理(IL)、ドイツ語の統語規則及び翻訳規則の順に説明していく。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

  • Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察2

    2 モンタギュー文法のドイツ語への適応

     UGは、文法体系を代数的に規定する総合的な理論であり、PTQは、UGの枠組みを英語の断片を用いて具体的に展開させている。Löbner(1976)では、数学上の基礎概念(集合論、関数式等)をUGに従って説明し、PTQに準じた形で、ドイツ語の統語論、内包論理、双方を関連付けるために翻訳規則が規定されている。図式化すると次のようになる。

    統語論 範疇 範疇文法による規定(f)タイプ ILの表現の範疇の規定 統語論
    統語論 基本表現 ドイツ語の断片に対する語彙目録(翻訳規則)基本表現 それぞれのタイプの定項と変項
    統語論 統語規則 ドイツ語の断片を生成(翻訳規則)統語規則 ILの有意表現形成
                       Des:REF+意味規則 意味規則 意味論

     以下、ドイツ語の範疇及び基本表現、内包論理(IL)、ドイツ語の統語規則及び翻訳規則の順に説明していく。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

  • Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察1

    1 はじめに

     数学的で厳密な理論的枠組みに基づき、人工言語も含めた言語の統語論と意味論を規則化したモンタギューの文法理論が自然言語の文に見る曖昧性をどの程度定義できるのか考察していく。即ち、これまでにモンタギュー文法の視点から、de-re/de-dito読み、文修飾の副詞、時制、限量子等の曖昧性に関しては指摘があるも、本稿のテーマの一つである様相因子の動きにより生じる曖昧性については指摘がない。“Das Mädchen fängt an zu weinen.”は、様相因子が主語内的ならば、意図的な読みに、主語外的ならば、あるプロセスの始まりになろう。 
     筆者自身の研究の流れを考えた場合、卒業論文で題材としたヴァイスゲルバーの母国語の世界像よりもさらに深層にある論理的な側面を追求するため、モンタギューによる形式意味論を考察していく。確かにモンタギューを契機とした今日の形式意味論は、当初のものとはかなり形を変えており(例えば、状況意味論)、例えば、可能世界という概念に対する多方面からの批判を踏まえ理論も修正されている。
     しかし、現在においてもモンタギュー自身の文法理論に対する批判があることを考えれば、今一度考察の対象にする価値はある。ましてや批判の中には誤解から生じたものも見受けられる。例えば、Martin(1975)には、モンタギューの文法理論は、自然言語とメタ言語の区別も深層と表層の区別もなされていないと記述がある。しかし、双方の言語間の違いは既成の事実であり、このことと方法論上一般的な視点から双方の言語の規定を目指したモンタギューの試みが別の問題であることや論理学の考察が概して深層にある一方、PTQでは、その対象が比較的表層にあることを見落としている。
     そこで、第一章では、Löbner(1976)に従って、Montague(1974a、1974b)の理論的枠組みを概略しつつ、そのドイツ語への適用を示すことにする。第二章は、実際に対象とする言語現象の説明である。即ち、zu不定詞句を下位構造とする様相動詞のうち、anfangen、beginnen、aufhörenには統語論上、意味論上の特性があることを示唆し、様相因子の問題を取り上げる。第三章は、上記三つの動詞からなる文章をモンタギューの文法理論にあてはめることにより、様相因子の動きによる曖昧性が規定されるかどうか検討していく。
     但し、この小論では、対象とする自然言語がドイツ語ゆえに参考書としてLöbner(1976)を選択した。しかし、他にも優れた手引きがあるため、以下に列挙する。坂井(1979)、内田(1979)、長尾・淵(1983)、白井(1985)、Thomason(1974)、Benett(1976)、Cooper(1976)、Partee(1975、1976)。
     なお、この論文は、1987年1月、立教大学大学院文学研究科博士前期課程ドイツ文学専攻修了時に提出した修士論文を修正加したものである。

    花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より

  • クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える8

    5 まとめ

     クレジオの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「パワナ」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みがある。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    参考文献

    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
    花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のDB化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会 2015
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会 2018
    花村嘉英 計算文学入門(改訂版)-シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
    Jean-Marie Gustave Le Clézio Pawana(「クジラの楽園」菅野訳)Gallimard 1992
    Le Clézio Wikipedia

    花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

  • クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える7

    表3 情報の認知

    同上 情報の認知1 情報の認知2 情報の認知3
    A 表2と同じ。 3 2 2
    B 表2と同じ。 2 2 2
    C 表2と同じ。 2 2 2
    D 表2と同じ。 2 2 1
    E 表2と同じ。 2 2 2

    A 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    D 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    E 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。   

    結果  
      
     この場面でスカモン船長は、小説の中の現在にあたる1911年から過去の1856年1月について語り、過去と現在を揺れ動く意識が歴史の背景と結びついているため、クレジオは、歴史の犠牲者としてスカモン船長をこの場面に登場させた。そのため、購読脳の「捕鯨と現在過去の対比」からクレジオの置かれた立場「語りの効果と再生」という執筆脳の組を引き出すことができる。  

    花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

  • クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える6

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の条件である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

  • クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える5

    分析例

    1 スカモン船長が小説の現在1911年から過去の1856年1月について語る場面。  
    2 この小論では、「パワナ」の執筆脳を「語りの効果と再生」と考えているため、意味3の思考の流れ、再生に注目する。   
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3関心①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし。    
    4 人工知能 ①語りの効果、②再生。   
     
    テキスト共生の公式   
     
    ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「捕鯨と現在過去の対比」を作る。
    ステップ2 小説の現在1911年から過去の1856年1月について語るため、「語りの効果と再生」という組を作り、解析の組と合わせる。   

    A ①視覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①語りの効果+②再生という組と合わせる。
    B ②聴覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①語りの効果+②再生という組と合わせる。
    C [①視覚+②聴覚] +④楽+①あり+①直示という解析の組を、①語りの効果+②再生という組と合わせる。 
    D ①視覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①語りの効果+②再生という組と合わせる。
    E [①視覚+⑤触覚]+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①語りの効果+②再生という組と合わせる。   

    結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

  • クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える4

    【連想分析1】
    表2 受容と共生のイメージ合わせ

    スカモン船長が過去を語る場面
    A Moi, Charles Melville Scammon, en cette année de 1911, approchant de mon terme, je me souviens de ce premier janvier de l’année 1856 quand le Léonore a quitté Punta Bunda, en route vers le sud. 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 1
    B Je n’ai voulu donner aucune vers explication à l’équipage, mais Thomas, mon quartier-maître, avait surpris une conversation avec le second capitaine, M.Roys, dans la salle des cartes. 意味1 2 、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 2
    C Nous parlions de ce passage secret, du refuge des baleines grises, là où les femelles venaient mettre au monde les petits. 意味1 1+2、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人口知能 2
    D M. Roys ne croyait guère à l’existence d’un tel refuge qui, selon ce qu’il disait, ne pouvait être né que dans l’imagination de ceux qui croyaient aux cinetières des éléphants ou au pays des Amazones. 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味14 1、人工知能 2
    E Purtant, le bruit s’est répandu et une sorte de fièvre s’est emparée de tout l’équipage. C’était bien cela qu’on allait chercher au sud, ce refuge secret, cette cachette fabuleuse, où toutes les baleines du pô le étaient réunies. 意味1 1+5、意味2 3、意味3 1、意味1 1、人工知能 2

    花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

  • クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える3

    3 データベースの作成

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】

    表1 「パワナ」のデータベースのカラム

    項目名 内容  説明
    文法1 態    能動、受動、使役。
    文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法3 様相  可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽  情動との接点。瞬時の思い。
    意味3 思考の流れ 関心ありなし
    意味4 振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「捕鯨と現在過去の対比」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。  
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能
    効果と再生 エキスパートシステム 効果とは、場面にふさわしい状況を人為的に作ること。再生とは、精神的に生まれ変わること。

    花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より