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  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」で執筆脳を考える-実母のうつ病9

    分析例

    (1)“Wunschloses Unglück”執筆時のハントケの脳の活動を「記憶と感情」という組からなると考えている。共生の読みは、母の半生の分析と自身とは距離を取るも母とは取ることができない感情の縺れが関与するため、この作品の文体は、作者の感情の縺れを描くところに本質がある。
    (2)情報の認知1(感覚情報)
    感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の反応である。
    (3)情報の認知2(記憶と学習)
    外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。また、未知の情報はカテゴリー化されて、経験を通した学習につながる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。
    (4)情報の認知3(計画、問題解決)  
    受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へ、である。  
    (5)人工知能1 執筆脳を「記憶と感情」としているため、母の半生と感情の表出が重要となり、そこに専門家としての調節が効力を発揮する。①記憶、②感情、③その他

    A 情報の認知1は、③その他の反応、情報の認知2は、②新情報、情報の認知3は、①計画から問題解決へ、人工知能は①記憶+②感情である。
    B 情報の認知1は、①ベースとプロファイル、情報の認知2は、②新情報、情報の認知3は、①計画から問題解決へ、人工知能は②感情である。
    C 情報の認知1は、②グループ化、情報の認知2は、②新情報、情報の認知3は、①計画から問題解決へ、人工知能は②感情である。
    D 情報の認知1は、②グループ化、情報の認知2は、②新情報、情報の認知3は、②問題未解決から推論へ、人工知能は②感情である。
    E 情報の認知1は、②グループ化、情報の認知2は、②新情報、情報の認知3は、①計画から問題解決へ、人工知能は②感情である。

      

    花村嘉英(2020)「ペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』の執筆脳について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」で執筆脳を考える-実母のうつ病8

    【連想分析2】

    表3 情報の認知 母マリアが自分の居場所を把握する場面
    A A Sie lief nie weg. Sie wußte inzwischen, wo ihr Platz war. “Ich warte nur, bis die Kinder groß sind.” Eine dritte Abtreibung, diesmal mit einem schweren Blutsturz. Kurz vor ihrem vierzigsten Lebensjahr wurde sie noch einmal schwanger. Eine weitere Abtreilung war nicht mehr möglich, und sie trug das Kind aus.
    情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1、人工知能1+2

    B Das Wort “Armut” war ein schönes, irgendwie edles Wort. Es gingen von ihm sofort Vorstellungen wie aus alten Schulbüchern aus: arm, aber sauber. Die Sauberkeit machte die Armen gesellschaftsfähig. 
    情報の認知1 1、情報の認知2 2、情報の認知3 1、人工知能 2

    C Der soziale Fortschritt bestand in einer Reinlichkeitserziehung; waren die Elenden sauber geworden, so wurde “Armut” eine Ehrenbezeichnung. Das Elend war dann für die Betriffenen selber nur noch der Schmutz der Asozialen in einem anderen Land. 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1、人工知能 2

    D “Das Fenster ist die Visitenkarte des Bewohners.” So gaben die Habenichte gehorsam die fortschrittlich zu ihrer Sanierung bewilligten Mittel für ihre eigene Stubenreinheit aus.
    情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2、人工知能 2

    E Im Elend hatten sie die öffentlichen Vorstellungen noch mit abstoßenden, aber gerade darum konkret erlebbaren Bildern gestört, nun, als sanierte, gesäuberte “ärmere Schicht”, wurde ihr Leben so über jede Vorstellung abstrakt, daß man sie vergessen konnte. Vom Elend gab es sinnliche Beschreibungen, von der Armut nur noch Sinnbilder. 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1、人工知能 2

    花村嘉英(2020)「ペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』の執筆脳について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」で執筆脳を考える-実母のうつ病7

    分析例

    (1)母マリアが自分の居場所を把握する場面。
    (2)文法2 テンスとアスペクト、1は現在形、2は過去形、3は未来形、4は現在進行形、5は現在完了形、6は過去進行形、7は過去完了形。 
    (3)意味1 喜怒哀楽、意味2 1視覚、2聴覚、3味覚、4嗅覚、5触覚、意味3 振舞いの1直示と2隠喩、意味4 感情の縺れ 1あり2なし。 

    テキスト共生の公式
    (1)言語の認知による購読脳の組み合わせを「母の半生と精神疾患」にする。母マリアが貧しいながら自分の居場所を理解する。 
    (2)文法2のテンスとアスペクトや意味2の五感には、一応ダイナミズムがある。また、連想分析1の各行の「母の半生と精神疾患」を次のように特定する。

    A母の半生と精神疾患=テンスは過去形、哀、五感は触覚、直示、感情の縺れあり。  
    B母の半生と精神疾患=テンスは過去形、哀、五感は視覚、隠喩、感情の縺れあり。  C母の半生と精神疾患=テンスは過去形、哀、五感は視覚、隠喩、感情の縺れあり。
    D母の半生と精神疾患=テンスは現在形+過去形、哀、五感は視覚、隠喩、縺れあり。
    E母の半生と精神疾患=テンスは過去形、哀、五感は視覚、隠喩、感情の縺れあり。
     
    結果 上記場面は、「母の半生と精神疾患」という購読脳の条件を満たしている。

    花村嘉英(2020)「ペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』の執筆脳について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」で執筆脳を考える-実母のうつ病6

    【連想分析1】

    表2 言語の認知(文法と意味)母マリアが自分の居場所を把握する場面

    A Sie lief nie weg. Sie wußte inzwischen, wo ihr Platz war. “Ich warte nur, bis die Kinder groß sind.” Eine dritte Abtreibung, diesmal mit einem schweren Blutsturz. Kurz vor ihrem vierzigsten Lebensjahr wurde sie noch einmal schwanger. Eine weitere Abtreilung war nicht mehr möglich, und sie trug das Kind aus.
    文法2 2、意味1 3、意味2 5、意味3 1、意味4 1

    B Das Wort “Armut” war ein schönes, irgendwie edles Wort. Es gingen von ihm sofort Vorstellungen wie aus alten Schulbüchern aus: arm, aber sauber. Die Sauberkeit machte die Armen gesellschaftsfähig.
    文法2 2、意味1 3、意味2 1、意味3 2、意味4 1

    C Der soziale Fortschritt bestand in einer Reinlichkeitserziehung; waren die Elenden sauber geworden, so wurde “Armut” eine Ehrenbezeichnung. Das Elend war dann für die Betriffenen selber nur noch der Schmutz der Asozialen in einem anderen Land. 文法2 2、意味1 3、意味2 1、意味3 2、意味4 1

    D “Das Fenster ist die Visitenkarte des Bewohners.” So gaben die Habenichte gehorsam die fortschrittlich zu ihrer Sanierung bewilligten Mittel für ihre eigene Stubenreinheit aus. 
    文法2 1+2、意味1 3、意味2 1、意味3 2、意味4 1

    E Im Elend hatten sie die öffentlichen Vorstellungen noch mit abstoßenden, aber gerade darum konkret erlebbaren Bildern gestört, nun, als sanierte, gesäuberte “ärmere Schicht”, wurde ihr Leben so über jede Vorstellung abstrakt, daß man sie vergessen konnte. Vom Elend gab es sinnliche Beschreibungen, von der Armut nur noch Sinnbilder. 文法2 2、意味1 3、意味2 1、意味3 2、意味4 1

    花村嘉英(2020)「ペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』の執筆脳について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」で執筆脳を考える-実母のうつ病5

    4 データベースの作成・分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。 

    【データベースの作成】表1「Wunschloses Unglück」のデータベースのカラム

    項目名 内容 説明
    文法1 態 能動、受動、使役。
    文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
    意味1  喜怒哀楽 喜怒哀楽と記事なし。 
    意味2  五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味3  振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    意味4 感情の縺れ あり、なし。
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「母の半生と精神疾患」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
    記憶 短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述) 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報は、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 記憶と感情 エキスパートシステム 記憶は、情報を脳に書き込み、保持し、意識にのせる三段階の機能かならなる。感情は、驚き、怒り、喜び、恐怖、悲しみ、嫌悪など状況に反応して進行する複雑な感覚のこと。

    花村嘉英(2020)「ペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』の執筆脳について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」で執筆脳を考える-実母のうつ病4

     事情が好転し、マリアは子供(ハントケ)と本を読み自身のことも語るようになる。彼女の関心は政治、特に社会主義である。しかし、個人的な支えとなるとは思っていない。他に趣味はない。楽しい一方で精神的にダメージを受け、次第に抑うつの症状が現れる。(Wikipedia2) 
     抑うつは、うつ病の主な症状の一つで、憂うつ感と不安感が混じったものである。日本成人病予防協会(2014)によると、気分がふさぐ、気が滅入る、将来に対して悲哀感や絶望感を抱える、現実感が失われる悲観的になる、なんとなく漠然とした不安感を持つ、些細なことに腹を立てるなどの症状がみられる。マリアの場合、気分障害でも躁うつ双方の状態がみられ、両極型の症状である。但し、うつ症状が主で、躁状態は軽い段階で済んでいる。  
     その後、マリアは、病気になり頭痛を薬で抑え、はっきり考えることができなくなる。精神科に行くと、精神虚脱といわれて旅行を勧められ、ユーゴスラビアへ行く。確かに刺激の少ない環境で静養することは好ましい。しかし、旅は功を奏さず、再び薬に溺れる。自殺を考え、部屋に引きこもるようになる。死への憧れが日に日に強くなった。
     ペーターと手紙のやり取りがあった。彼は、母が自殺を考えないようにしようと試みた。しかし、回避できなかった。ある日、マリアは知り合い全員に別れの手紙を書いてから、睡眠薬と抗うつ剤を多量に服用し自殺した。日本成人病予防協会(2014)は、うつ病の患者の90%以上が睡眠障害を引き起こすとし、うつ病の症状は、朝に最も強く現れ、夕方になると心身共に楽になっていく日内変動としている。
     この小論では、‟Wunschloses Unglück”についての購読脳を「母の半生と精神疾患」とし、執筆脳を「記憶と感情」にする。また、母マリアの精神疾患はもちろん、作者自身も感情の表出を余儀なくされたため、‟Wunschloses Unglück”のシナジーのメタファーは、「ハントケと感情の縺れ」にする。自身とは距離を取るも母とは決して取ることができない感情である。

    花村嘉英(2020)「ペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』の執筆脳について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」で執筆脳を考える-実母のうつ病3

    3 ハントケの‟Wunschloses Unglück”のLのストーリー
     
     オーストリア南部のケルテン州で兄弟姉妹とともに育ったマリアは、父に抑圧されていた。学校では才能を評価され、親切で協調性のある生徒であった。仕事を習得しようと思うも父に禁じられ、15年間実家を離れた。(Wikipedia)こうした家庭内の葛藤は、将来における気分障害の発症を予期させる。
     彼女の最初の仕事は、皿洗い、部屋の掃除婦、会計係そしてホテルの調理師である。ナチス・ドイツのメンバーであった既婚のドイツ人と恋愛し妊婦になる。男の年齢は、母より上で頭が禿げており、母は黒髪で背が高く、歩くときは平たいサンダルを履いていた。 
     出産前にドイツ軍の下士官と結婚する。子供(ハントケ)を女手一つで育てるのは難しいかったためである。ベルリンにいる間にふっくらしていた頬はこけた。ロシア人とスロベニア語でやり取りをした。しかし、冒険は望まない。戦後は男と愛憎定まらぬ関係になる。大都市での生活は、可能性がなかった。異性関係や家族の問題が気分障害の病前性格に絡む精神的な問題になることもあり、将来のうつ病の引き金と読み取れる。 
     1948年の初夏、夫と二人の子供とビザなしでベルリンからオーストリアの故郷を目指す。転居後は、家族と暮らす。しかし、村での生活は苦しかった。節約が重要で、食事と冬用の燃料以外は贅沢品である。夫が彼女を殴っても、彼女はそれを笑い飛ばした。
     次第に彼女は、居場所がわかってきた。子供が大きくなるまで待つだけである。40歳を前にして三度目の堕胎。再度妊婦となるももはや堕胎はできない。貧しいけれども子供を出産する。妊娠や堕胎そして出産ももちろん気分障害の発症の原因といえる。

    花村嘉英(2020)「ペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』の執筆脳について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」で執筆脳を考える-実母のうつ病2

    2 作品の背景

     ペーター・ハントケは、1942年にギッフェンで生まれ、現在はパリ在住である。2019年のノーベル文学賞受賞作家である。当初は社会と隔たりがある個人を描き、次第に全体的に同意して書くようになっていく。
     ‟Wunschloses Unglück”(幸せではないが、もういい)は、1972年ザルツブルクのレジデンツ出版社から最初に出版された。
     ヘルムート・シェッケルは、判決ではなく、母のための文学の記念碑でもなく、埋葬後、作者と読者が自由に呼吸できるような孤独なイメージでもなく、恐ろしく開いた傷についての描写だとフランクフルター・アルゲマイネ紙に書いている。 
     評論家の多くがこの作品をハントケの文体の転換期に位置づけている。(Wikipedia)ケルトナー紙の土曜日版に「混ぜこぜ」という見出しで、自殺の記事が掲載された。1971年11月19日に自殺した母マリアの人生を7週間経過した翌年の1月から半ば伝記風に描き、その年の2月に書き終えた。
     埋葬の時は、とても強かった母に関する書きたいという欲望が無気力で暗黙の了解に変わってしまう前に、ハントケは、仕事をしたかった。自叙伝的な諸相を取り込み、自分の感情について語り、貧しい環境においても自立を試みた母の成長を描くために。

    花村嘉英(2020)「ペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』の執筆脳について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」で執筆脳を考える-実母のうつ病1

    1 先行研究

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
     執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
     メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

    花村嘉英(2020)「ペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』の執筆脳について」より

  • 心理学統計の検定を用いてエリアス・カネッティの「マラケシュの声」を考える6

    1 最初は満足度に差がないと予測する。しかし、二人の平均値を取ると、作者 1.3、老人1.6になる。この差は誤差の可能性がある。
    2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう満足度は弱強で従属変数になる。
    3 独立変数そのものの1、2、3が要因で、独立変数が実際にとる値、満足度が水準になる。
    4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、満足度という要因は、参加者内要因になる。
    5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。 
    6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を報告する。
    [満足度のt検定]
    作者の平均1.3 老人の平均1.1、よってt値=0.2。
    自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
    p値は、0.2にする。ここでは5%未満のため、対立仮説を採択し、差があると考える。

    3 まとめ

     エリアス・カネッティの「マラケシュの声」に登場人物についてデータベースから心理学統計による人物評価をしてみると、満足度に関して差があることが分かった。

    参考文献

    実吉綾子 心理学統計入門 技術評論社 2013
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018 
    花村嘉英 エリアス・カネッティの「マラケシュの声」の執筆脳について ブログ「シナジーのメタファー」2019
    Elias Canetti Die Stimme von Marrakesch Fischer 1985