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  • 太宰治の「ヴィヨンの妻」で執筆脳を考える6

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③条件反射である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2020)「太宰治の『ヴィヨンの妻』の執筆脳について」より

  • 太宰治の「ヴィヨンの妻」で執筆脳を考える5

    分析例

    1 電車でポスターの広告に夫の名前を見つけた場面。
    2 この小論では、「ヴィヨンの妻」の執筆脳を「虚構と予感」と考えているため、意味3の思考の流れは、虚構に注目する。  
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3虚構①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし
    4 人工知能 ①虚構、②予感   
     
    テキスト共生の公式  

    ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「黄昏の悲しさと細部の描写」を作る。
    ステップ2 虚構は、作りごと、死の予感に通じることから「虚構と予感」という組を作り、解析の組と合わせる。

    A:①視覚+④楽+②虚構なし+①直示という解析の組を、①虚構なし+②予感ありという組と合わせる。
    B:①視覚+③哀+①虚構あり+①直示という解析の組を、①虚構なし+②予感ありという組と合わせる 。
    C:①視覚+④楽+①虚構あり+①直示という解析の組を、①虚構なし+②予感ありという組と合わせる。 
    D:①視覚+③哀+①虚構あり+①直示という解析の組を、①虚構あり+②予感なしという組と合わせる。
    E:①視覚+③哀+①虚構あり+①直示という解析の組を、①虚構あり+②予感なしという組と合わせる。  

    結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2020)「太宰治の『ヴィヨンの妻』の執筆脳について」より

  • 太宰治の「ヴィヨンの妻」で執筆脳を考える4

    【連想分析1】
    表2 受容と共生のイメージ合わせ

    電車でポスターの広告に夫の名前を見つける

    A  何処へ行こうというあてもなく、駅のほうに歩いて行って、駅の前の露店で飴を買い、坊やにしゃぶらせて、それから、ふと思いついて吉祥寺までの切符を買って電車に乗り、つり革にぶらさがって何気なく電車の天井にぶらさがっているポスターを見ますと、夫の名が出ていました。意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1、虚構予感 2

    B それは雑誌の広告で、夫はその雑誌に「フランソワ・ヴィヨン」という題の長い論文を発表している様子でした。私はそのフランソワ・ヴィヨンという題と夫の名前を見つめているうちに、なぜだかわかりませぬけれども、とてもつらい涙が湧いて出て、ポスターが霞んで見えなくなりました。
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、虚構予感 2

    C 吉祥寺を降りて、本当にもう何年か振りかで井の頭公園に歩いて行って見ました。池のはたの杉の木が、すっかり切り払われて、何かこれから工事でもはじめられる土地みたいに、へんにむき出しの寒々した感じで昔とすっかり変っていました。意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、虚構予感 2

    D 坊やを背中からおろして、池のはたのこわれかかったベンチに二人ならんで腰をかけ、家から持って来たおいもを坊やに食べさせました。「坊や。綺麗なお池でしょう?昔はね、このお池に鯉トトや金トトが、たくさんたくさんいたのだけれども、いまはなんいも、いないわねえ。つまんないねえ」
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、虚構予感 1

    E 坊やは、なんと思ったのか、おいもを口の中に一ぱい頬張ったまま、けけ、と妙に笑いました。わが子ながら、ほとんど阿呆の感じでした。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、虚構予感 1

    花村嘉英(2020)「太宰治の『ヴィヨンの妻』の執筆脳について」より

  • 太宰治の「ヴィヨンの妻」で執筆脳を考える3

    3 データベースの作成・分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】  

    表1 「ヴィヨンの妻」のデータベースのカラム

    文法1 名詞の格 太宰治の助詞の使い方を考える。
    文法2 態 能動、受動、使役。  
    文法3 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法4 様相 可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
    意味3 思考の流れ 虚構、ありなし。
    意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。  
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「黄昏の悲しさと細部の描写」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。  
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 虚構と予感 エキスパートシステム 虚構は作りごと、予感は死を予め感じること。

    花村嘉英(2020)「太宰治の『ヴィヨンの妻』の執筆脳について」より

  • 太宰治の「ヴィヨンの妻」で執筆脳を考える2

    2 「ヴィヨンの妻」の五感によるLのストーリー

     太宰治(1909-1948)の「ヴィヨンの妻」(1947)は、1946年に疎開先から三鷹に戻り、亡くなる1948年6月までに書かれた短編の一つである。1947年の展望三月号に掲載されたこの小説は、暗さが漂い死を告げているような感がある。亀井(2009)によると、太宰文学の魅力は、直観的な閃きによる思想や巧みな表現である。敗戦後の太宰の心の奥底には、無頼漢、ならず者という観念があって、これは、既成のすべての文字を破壊し、自己の滅亡も構想に入れた謀反に当たる。
     「ヴィヨンの妻」は、特に太宰の細部への気配りに注目したい。主人公とその妻から出てくる雰囲気は、人類の黄昏の悲しさである。太宰は、虚構の名人で空想力に長けている。亀井(2009)は、自身の事を書いているも、太宰が事実をありのままに描くことはないとする。彼のことばは思想であることはいうまでもない。細部の何でもないことばや描写にこもる思いを大切にしている。そこで「ヴィヨンの妻」の購読脳を「黄昏の悲しさと細部の描写」にする。
     この購読脳の組み合せが、共生の読みの入力となって横にスライドし、執筆脳として「虚構と予感」という組を想定する。暗さが次第に増して、太宰の死の予感を告げるようにもとれるためである。また、双方をマージしたシナジーのメタファーは、倫理と無頼漢という矛盾した胸の内から新たな倫理を探求したため、「太宰治と新たな倫理」という組み合わせにする。  
     
    花村嘉英(2020)「太宰治の『ヴィヨンの妻』の執筆脳について」より

  • 太宰治の「ヴィヨンの妻」で執筆脳を考える1

    1 先行研究

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
     執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
     なお、メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

    花村嘉英(2020)「太宰治の『ヴィヨンの妻』の執筆脳について」より

  • 武者小路実篤の「愛と死」で執筆脳を考える8

    4 まとめ   

     武者小路実篤の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「愛と死の対決と葛藤」のLのストーリーをデータベース化し、最後に特定したところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みがある。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    参考文献

    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
    武者小路実篤 愛と死 (解説 小田切進) 新潮文庫 2014
    スペインかぜ Wikipedia 

  • 武者小路実篤の「愛と死」で執筆脳を考える7

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    B 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    C 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    D 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 1、情報の認知3 1

    A:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    D:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    E:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は①旧情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。    

    結果  
      
     武者小路実篤は、この場面で夏子の死による村岡の葛藤を描いている。嫉妬の悪戯ともいえるとし確認するも、村岡は、改めて同じ内容の電報を受け取るため、購読脳の「愛と死の対決と葛藤」と「抵抗と普遍」という執筆脳の組が相互に作用する。 

    花村嘉英(2020)「武者小路実篤の『愛と死』の執筆脳について」より

  • 武者小路実篤の「愛と死」で執筆脳を考える6

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の反応である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2020)「武者小路実篤の『愛と死』の執筆脳について」より

  • 武者小路実篤の「愛と死」で執筆脳を考える5

    分析例

    1 夏子の死が電報で伝わった場面。   
    2 この小論では、「愛と死」の執筆脳を「愛と死の対決と葛藤」と考えているため、意味3の思考の流れ、葛藤に注目する。  
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3葛藤①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし
    4 人工知能 ①抵抗、②普遍     
     
    テキスト共生の公式    
     
    ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「愛と死の対決と葛藤」を作る。
    ステップ2 組織全体の中でその人を評価するため「抵抗と普遍」という組を作り、解析の組と合わせる。  

    A:①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①抵抗+②普遍という組と合わせる。
    B:①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①抵抗+②プ普遍という組と合わせる。
    C:①視覚+③哀+①あり+②隠喩という解析の組を、①抵抗+②普遍という組と合わせる。 
    D:①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①抵抗+②普遍という組と合わせる。
    E:①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①抵抗+②普遍という組と合わせる。   

    結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2020)「武者小路実篤の『愛と死』の執筆脳について」より