通知が来なくなって4日経った。恐喝の手紙を受け取るという不安は、金の支払により夕べの安らぎを買うことになった。ベルの呼び出しでドアを開けると、驚いたことにそこには醜い顔の恐喝女ワーグナー夫人がいた。すぐに片付くとして厚かましくも家の中に入ってくる。何がほしいのか。ワーグナー夫人は、金が必要である。400クローネ。イレーネ夫人は、金がないといい、代わりに婚約指輪を渡す。夫には指輪を掃除に出しているという。外に出てあたりを見回しても誰にも会わない。通りの反対方向から夫の視線を感じた。
かつての愛人の家の前に来た。イレーネは、喜びで体が震えた。愛人が鍵を開けてドアが開いた。彼に助けを求めるも幻想にとりつかれ荒れ狂う。外に出ると辺りは暗く、夫に似ている人がいても追いかけるには不安があった。彼の姿が影に消えた。振り向いても誰もいない。薬局で夫に出会う。通りで見た男である。顔は青白く、額に汗をかいている。通リを並んで歩く。部屋に入り二人は黙っている。夫が優しく接近する。突然イレーネがすすり泣く。耐えられないことで数週間緊張し、神経が擦り切れ、荒れ狂う苦痛で体には感覚がなかった。もう心配することはない、すべてが終わったと夫はいう。イレーネにキスして愛撫する。
翌朝目を覚ますと部屋のなかは明るく雷雨が去ったようである。何が起こったのか思い出だそうとする。驚いたことに、指には指輪があり、思考と嫌疑がかみ合って全てのことが理解できた。夫の質問、愛人の驚き、全ての縫い目が巻き戻った。微笑みが彼女の唇に現れ、何が自分の幸福なのかを深く享受するために目を閉じて横になった。
シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の不安は、第一次世界大戦前夜のヨーロッパにあった日常のものである。イレーネの症状は、疲れやすく集中できず、緊張して眠れないという全般性の不安障害の診断項目に該当し、また、動悸・息切れがする、吐き気がする、不快感があるといったパニック障害の診断項目も確認できるため、購読脳は、「不安と恐怖」にする。「不安と恐怖」が入力になる「Angst」の執筆脳は、「自我とパーソナリティ」である。双方をマージした際のシナジーのメタファーは、「シュテファン・ツヴァイクとストレス反応」にする。
花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より